和菓子を守り、引き継ぐために
分野の壁を越えた学びを推奨する、副専攻プログラム。
2024年末には、当プログラムの履修者たちによるポスター発表会が行われました。学部・学年問わず文系の学生が集まり、お互いの発表を聞きあうことで、刺激的な交流の場になったようです。
Vol.2となる今回は、和菓子の保護に関する研究発表を行った、法学部3年生(取材当時)の小田さんにお話を伺いました。
— 研究内容を教えてください。
私の研究発表は「和菓子の真正性の検討と保護方法の模索」というものになります。
まず、和菓子の価値付けが、昔から今にかけて変化しているという現状があります。かつて和菓子が文化的に価値あるものになった背景には、「家内的シテ」(編者注:シテ=価値観、価値づけのこと)が大きな要素を占めています。
「家内的シテ」は、血縁、地縁、伝統や礼儀作法などといったものです。こういう価値観が和菓子の中で大きな部分を占めていました。 その他に「インスピレーションのシテ」、「工業的シテ」や「市場のシテ」っていうようなものがあります。これらが近代になるにつれて茶会の場の減少や、SNSの発達、そして工業化が進んだことなどによって、大きく変化しました。 例えば、昔だったら茶会の場でしか出されないから動物の顔の和菓子なんてなかったけど、今は動物の顔の練り切り・こなしみたいなものがあったりするし(「インスピレーションのシテ」の増大)、昔は職人が全部手で作ってたけど、今は工場で、機械で全部作れてしまったり(「工業的シテ」の増大)、そもそもお客さんの層とかも変わってきている(「市場のシテ」の変容)といった変化がありました。
こういった変化の結果、「家内的シテ」すなわち「伝統的なものであることという価値」が相対的に小さくなってしまいました。これを理由に、伝統的な和菓子がだんだん廃れていっているのが現状になります。
文化遺産の保護っていうのは、そもそもなくなりそうなもの・なくなりそうな文化的な価値あるものを保護することが目的なので、このなくなりそうになっている「家内的シテ」を保護することを目的とします。 この和菓子の「家内的シテ」、すなわち職人の技術の保護の上での課題が三つあります。
1つ目が「暖簾の限界」です。どういうことかというと、今までは職人が作った伝統的な和菓子は和菓子屋さんの名前によって保証されていたという歴史があるんですが、今ではその有名な和菓子屋さんであっても工場で作っていたりするようになってしまったので、和菓子屋さんの名前だけでその品質を保証することができなくなっているというのが「暖簾の限界」です。
2つ目が「味の価値の低下」、つまりインスタ映えと呼ばれるようなフォトジェニックな要素が重要な評価基準となったことによって、見た目が良ければ(味は伝わらないので写真では)、そんなに製法やノウハウにこだわらなくてもいいよねっていうような価値観があります。
3つ目が「道具の衰退」で、和菓子を作るには、特殊な道具もたくさん使うんですが、その道具自体が作る職人が減ってきて、ものが減っているという課題があります。
海外の制度から学ぶ
これらの課題をもとに、和菓子の伝統的な価値を保証するための制度として、品質保証制度っていうのを検討しています。 食を評価する仕組みとして特徴的なワインの文化があるんですが、そのワインの文化を基に和菓子にも品質保証制度が適用できないかという検討を行っています。 具体的にワインの文化ではAOCと呼ばれる、決められた産地で、決められたノウハウで、決められた材料を使って作ったワインには、このラベルを貼っていいよっていうような制度があります。 また、国が「M.O.F(Meilleur Ouvrier de France)」という優秀なワイン職人に授与される称号があって、またソムリエというのが社会的にとても地位の高いものであるっていうような社会的背景もあります。
これらを和菓子にも適用してみるといいんじゃないかなっていうふうに考えていて。
現在和菓子には優秀和菓子職人というのが和菓子協会にあって、それが2番でいうM.O.Fと同じような制度であると思っています。1番のAOCと似たような制度は現状日本にはないので、これを作っていくことを検討するんですが、その上で課題となってくるのが、つまりレシピを公開するっていうことになってしまうので秘伝の味みたいなものが意味をなさなくなってしまうというのが課題としてあります。 ただ、和菓子業界では昔から暖簾分けとか弟子とか、新しく独立したりすることにするに基づいてレシピを共有してきたり、違うOEM(他者ブランドの製品を製造する企業)元であっても同じレシピを共有していたっていうような事実があるので、この隠し味については特に検討しなくてもいいかなというふうに考えていて、ワインと同様に品質保証を優先して仕様書を作ることが可能ではないかなというふうに考えられます。 ただし、商標や知的財産に対する視点からさらなる視察が必要であるというふうには思っています。
ここまでで和菓子について品質保証制度を検討してきたんですが、和菓子以外の無形文化財についてもこの品質保証制度を一つ一つ検討して、適用できるものに関しては適用していくということができるといいんじゃないかなというふうに思っています。
— なぜこのテーマに興味をもったのですか?
そもそも文化遺産、特に無形のものに関心があって。
ものの価値が人に帰属しているところが面白いなというふうに思っています。価値観や思想が転々としていく中で、同じ価値観を引き継いでいかないと引き継いでいけないというのが無形の危うさかなっていうふうに思っていて。そこに興味がありました。
— 和菓子を取り上げた理由は何ですか?
すごく簡単に言うと和菓子が好きだったからです。
趣味でお菓子作りをしているんですけど、それは洋菓子を作っているんですね。和菓子を私が作らない理由って、作るのがすごく難しいからなんですけど、だからこそ買ったものが食べたいなと思うし、特別な職人が作ったものが食べたいなと思う。そういう意味で和菓子がすごく好きだったから、こういうテーマにしました。
— 発表の準備段階で大変だったことは?
そもそも文化遺産の保護の現状っていうのはあんまり調べても出てこなくて。特にメリットなくない?みたいな気持ちになるんですよね、調べていくと。 そういう部分を理解するのが難しくて、先生にちょっと文献を教えていただいたりして。
もともとゼミの発表の時は和菓子のことだけを話してたんですよね。無形文化財のことにはあまり触れていなくてシンプルに和菓子について調べたくて調べて発表したような感じだったので。それを文化遺産法的な視点でどういうところが課題なのかっていうのを見つけ出していくのがちょっと難しかったかなと思います。品質保証制度の検討というのも今回、新しく追加した部分です。
— 実際に発表してみての感想は?
思ったよりみんな聞いてくれるし、質問してくれるのが面白くもあり、怖くもあるなって思いました。
レシピを固定しましょうっていう制度を提唱しているんですけど、それって結果的にじゃあ機械で作ったほうがよくない?みたいな、「工業的シテ」に飲み込まれていくんじゃない?みたいな意見を聞いて「確かに」と思いつつ、それちょっと難しいなっていうふうに思いましたね。
教員や院生もいっぱいいるじゃないですか。それがやっぱり視点が鋭いし、分野外だから新しい視点でもあるし、自分が検討してなかったことを聞かれるのが怖かった(笑)、なかなか難しいなと思いました。
— 和菓子の魅力とは何でしょうか?
それぞれの国・地域のお菓子にそれぞれの良さがあって、そこに優劣はないんですけど、和菓子は、繊細であることが一番の魅力かなというふうに思っています。 製法一つをとっても温度だったり、湿度だったりが関係してきたり、最後の模様も、職人さんの手で一つ一つ作られるので。和菓子作り体験とかしたことがあるんですけど、手の上に置いてたら融けちゃうんですよ。でも、手の上でやらないといけなくて。 そういう繊細さは日本らしい部分で、 引き継いでいくべきだと思ってます。
価値観はいろいろあっていいと思っていて、インスタで映えるような和菓子が流行ることも大事だし、工場で作った和菓子をたくさん作って、たくさんの人に食べてもらうことも大事。
その市場の原理の中で生き残った和菓子を守っていくのももちろん大事。その並列の関係で、職人が作った和菓子もまた大事にしていくべきだと思っています。
取材協力
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