みなさんは学内のトイレに入ったとき、ふとこんな表示を目にしたことはありませんか?
「この便器の洗浄水は処理水を使用しています」

「処理水ってどこから来ているのかな」と気になったことがある方もいるのではないでしょうか。
実は、広大な伊都キャンパスではキャンパス内だけで水が循環する独自のシステムが動いています。今回は、九州大学の水事情を陰で支える拠点「給水センター」を取材しました!
巨大キャンパスを支える「水の循環システム」
九大ビッグオレンジバス停の向かい側に位置する給水センター。伊都キャンパスで使用される水は、すべて一度この給水センターに集まり、そこから各建物へと分配されています。
そして一度使われた水も再び給水センターへと集められ、綺麗に処理・再生されて、もう一度キャンパス内へ送り出されているのです。

年間で数千万円のコスト削減につながる再生水
一度出た廃水を再生するのは環境に優しいだけでなく、経済的にも非常に大きな効果があります。
通常、水道代は「上水道(使う水)」と「下水道(捨てる水)」の両方にかかります。
しかし、学内で水を循環させて「再生水(中水)」として再利用することで、かかる費用は設備のランニングコストや維持補修費などに抑えられます。
その結果、なんと年間で数千万円規模のコスト削減につながっているそうです。
広大な伊都キャンパスだからこそ、この水循環によるメリットが大きく活かされています。
キャンパスをめぐる「3つの水」
給水センターでお話を伺うと、キャンパス内には大きく分けて3種類の水が流れていることが分かりました。
1.上水(福岡市から購入する水):主に手洗い場や飲用などに使われる綺麗な水道水
2.再生水(中水):学内で使用した水をろ過・処理した水。実験用水等に再利用
3.濃縮水:トイレなどで流される水(※これのみ下水として直接福岡市へ排出)
これらの水は、学内の道路のすぐ下に伸びる「共同溝」と呼ばれる地下トンネルに張り巡らされたパイプラインを通って、給水センターと各校舎の間を行き来しています。

給水センター内部へ潜入!水が綺麗になる4つのプロセス
ここからは、施設内部の設備と廃水が再生水に生まれ変わるプロセスをご紹介します。
①地下から2階まで続く処理フロー
この給水センターは地下1階地上2階建ての構造になっており、その処理フローはすべての階を巡っています。
まず案内されたのは、地下にある「原水槽」。キャンパス中から集まった廃水が一番最初に溜まる場所です。
見学のために開けていただいた蓋からは、かなりの強烈なにおいが漂ってきました。

案内してくださった方によると、「夏場などの気温が高い時期にここを開けると、玄関付近までしばらくにおうほど」なのだそうです。
ここでは大きな異物を取り除き、固形物を沈殿・浮遊させて廃水を次の工程へ送ります。なお、一般的な下水処理場に届く水と比べると、九大の廃水は元から異物が少ないのも特徴です。

②「生物処理槽」で活躍する微生物
続いて移動したのは「生物処理槽」です。ここではツリガネムシやワムシといった原生動物(微生物)たちが汚水を浄化してくれます。

▲1階床下に連なる生物処理槽。中は曝気により微生物へ酸素供給をしている
4つの槽が連続して並んでおり、3〜4槽目になると目に見えて水が綺麗になっていくのが分かります。自然の作用により季節ごとに活発になる微生物が入れ替わり、常に高い浄化能力を発揮しているそうです。
ここで特に注目なのが、微生物が棲みつく「担持体」に使われている素材です。
なんと、市販の乳酸菌飲料の容器が活用されていました。これが各処理槽内部に何万個という単位で張り巡らされています。

微生物による処理を終えると凝集剤(PAC;ポリ塩化アルミニウム)で細かい汚れを固めて沈殿させます。
おまけ①:給水センターの広さの理由
給水センターの建物は少しスペースにゆとりのあるつくりになっています。実は設計当時、生物処理槽を2列並べられる程度の広さで建設されたのですが、実際に運用してみると1列の処理能力で十分カバーできたのだそうです。
③2階へ昇って「中空糸膜」で超精密ろ過
凝集沈殿後の水は2階の設備へと吸い上げられます。
ここで登場するのが「中空糸膜」という特殊なフィルターです。

砂ろ過よりもはるかに細かい穴が開いた円筒状の膜で、外側から内側へ水を通すことで目に見えない微粒子や菌類までキャッチします。つまりこの膜を通った段階で、菌類による食あたりは起きないレベルまで綺麗になるそうです。(※飲用ではないため飲むことはできません)

ずっとろ過を続けていると目詰まりを起こすため、1時間に1回・約5分間、空気を使って逆方向から吹く「逆洗」を行います。この丁寧なセルフクリーニングのおかげで、1本の中空糸膜が約4年間長持ちするとのことでした。
④最後の分岐点「逆浸透膜(RO膜)」で2つの水へ
最後に行われるのが、ナノレベルの穴(約1ナノメートル)を持つ「逆浸透膜(RO膜)」での処理です。
イオンすらほとんど通さないため、浸透圧以上の高圧力をかけることでほぼ「純水」に近い再生水が完成します。

まずは4本のRO膜で透析して透過水を得て、残った濃縮水を再度2本のRO膜で透析するという2段階構成にすることにより全体の75%の水を再生水として回収することができます。

こうして生まれた純粋な再生水と残ったイオン濃縮水は、それぞれ次のように使い分けられます。
- 透析・精製された再生水:学内の実験用水などとして活用
- 残ったイオン濃縮水:トイレの洗浄水として再利用
ちなみに福岡市東区の海水淡水化センター「まみずピア」では同様の逆浸透処理を行っていますが、九大ではそれよりも少ないエネルギーで透析できます。これは原水の塩濃度がそれほど高くないためで、塩濃度の差分が小さいほどエネルギーコストも抑えることができます。
おまけ②:安価で綺麗な再生水!
取材前は「再生水」と聞くと、なんとなく「実験用水もトイレの流し水も、全部同じひとくくりの再生水なのかな」と思っていました。
ところが実際は前述のとおり膜を通過した水と残った水で大きく違うものです。トイレで流す水はイオンが濃縮された純度の高くない水であり、そのまま下水として流されます。なので、シン・エヴァンゲリオン劇場版に出てくるような「誰のおしっこかも分からないこの再生水と同じ…清めればいいと思ってる」なんてことはないのです。(そもそも実験用水も飲用には使用していませんが、、)
対して実験用水として活用される再生水は「綺麗な水」といえます(このような水を上水や下水と対比して「中水」と呼ぶことがあります)。この中水も水道水質基準51項目に適合する上に、蒸発残留物は上水(水道水)よりも少なく、その純度の高さがうかがえます。そのため、実験などにおいてはこの再生水を使った方が良い結果が得られることもあるのだそうです。
勝手なイメージとして持っていた「実験用だから少し汚くても良い水」というのは実は真逆で、「再生水を使った方が実験データにもお財布にも優しい」というのはかなり印象的でした。
24時間体制の安全管理と環境分析の現場
2階には、給水センター全体の心臓部ともいえる「監視室」があります。

ここでは各設備の状態が常に表示されており、監視室とエネルギーセンターが連携することで、24時間体制で異常がないかをチェックしています。
さらに同じ2階には環境安全センターの分析室も併設されており、排出水の分析・確認も行われています。
おまけ③:トイレの「再生水表示」にはバリエーションがある?
今回の取材を通して、キャンパス内のトイレの表示板を改めて見直してみると、実は設置されている場所や建物によって少しずつ表記が異なっていることに気づきました。
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▲キャンパス内各所のトイレで見つけたバリエーション表記
温水洗浄便座は上水である旨の但し書きも良いですね。
取材を終えて
普段私たちが何気なく使ったり流したりしている水。その裏側には随一の処理設備を誇る給水センターがありました。
みなさんも学内のトイレを利用する際は、ぜひ壁やトイレットペーパーホルダーの近くにある表示プレートに着目してみてください。
そして実験を行う際は再生水を使いましょう!
